説得ではなく“納得”を生む、アサーティブコミュニケーション入門
「ごめん、それ今ムリ」
忙しそうな同僚にちょっとした仕事のお願いをしたとき、即座にこう返され、言い返せず引き下がってしまった。
「今日は予定あるので、残業できません」
後輩に急ぎの仕事を頼みたいのに、こう返され諦めてしまった。
「そうだよね、忙しいよね…」と自分に言い聞かせながらも、モヤモヤとした気持ちが残った。
結局その仕事は自分でなんとかこなしたけれど、その日はいつもより帰りが遅くなった。
こんな経験、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。
「相手にお願いしたかったのに、言えなかった」
「言ったのに、聞いてもらえなかった」
「伝えたのに、分かってもらえなかった」
私たちは、日々の業務のなかでこうしたコミュニケーションのすれ違いをいくつも経験しています。
そして、それが積み重なると、人間関係のストレスやチームの空気、果ては仕事の成果にも影響してくることがあります。
自己表現には3つのタイプがある
こうしたすれ違いの背景には、「自己表現のスタイル」の違いがあります。
心理学では、自己表現の仕方を以下の3つに分けて考えることがあります。
- アグレッシブ(攻撃的)
相手の気持ちよりも自分の意見や主張を優先する。強引な印象を与えがち。 - ノンアサーティブ(非主張的)
自分の気持ちを押し殺し、相手に合わせてしまう。我慢や後悔につながりやすい。 - アサーティブ(自己主張的)
相手の立場を尊重しながらも、自分の思いも率直に伝える。バランスの取れた伝え方。
先ほどの例では、私はノンアサーティブな対応をしてしまったと言えます。
相手が忙しそうだったからと、自分の頼みごとを遠慮して引き下がってしまったのです。
でも、それでは伝わらない。
本当は、「助けてほしい」という気持ちを、自分らしく、でも相手を思いやりながら伝えられるとよかったのです。
こういう時に役立つのがアサーティブコミュニケーションのスキルです。
アサーティブコミュニケーションとは、「自分の意見や気持ちを正直に伝えつつ、相手の立場や感情も尊重するコミュニケーションスタイル」のことです。
相手を「説得」ではなく「納得」させるには?
仕事では、誰かに依頼したり、お願いしたり、調整したりする場面がたくさんあります。
しかし、ただ説得するだけでは、なかなかうまくいきません。
「納得して動いてもらう」ことが大切なのです。
そのためには、伝え方にひと工夫が必要です。
相手の状況や気持ち、自分の意図を丁寧に整理しながら伝えることで、信頼感のあるやりとりが生まれます。
そこで役立つのが、アサーティブな伝え方のひとつ「DESC法」です。
DESC法とは?〜伝え方の4ステップ〜
DESC法とは、アサーティブコミュニケーションを実践するための、4つの伝え方のステップです。
- D(Describe):描写する
状況や相手の行動を、客観的・事実ベースで伝えます。
例:「さっき、会議の後にすぐ席を立ったよね」 - E(Explain):説明する
その出来事について、自分の感じたことや気持ちを主語「私」で伝えます。
例:「私は、話したいことがあったから少し残念に思ったよ」 - S(Specify):提案する
具体的にしてほしい行動を、丁寧に提案します。
例:「次は、会議後に少しだけ時間をもらえないかな」 - C(Choose):選択肢・結果を示す
それが叶った場合/叶わなかった場合の次の選択肢や見通しを伝えます。
例:「そうしてもらえると、私も安心できるし、お互いにスムーズに進むと思う」
DESC法は、単なる「お願い」の手段ではなく、自分も相手も大切にしたコミュニケーションの形です。
「観念のメガネ」がすれ違いを生む
ここで、もうひとつ意識したいのが、「観念のメガネ」という考え方です。
これは、「人は皆、それぞれ違った“ものの見方”をしている」という意味のたとえです。
性格、価値観、経験、環境…
これまでの人生で培ってきたものが、私たちの思考や感じ方に影響しています。
同じ出来事を見ても、人によって受け取り方は全く異なります。
だからこそ、「なんでわかってくれないの?」と嘆くより、相手には自分とは違う“見え方”があるのだと受け止めることが、対話の第一歩になるのです。
最後に:対話の質が、関係の質をつくる
人間関係の悩みの多くは、実は「伝え方」や「受け取り方」に起因しています。
アサーティブコミュニケーションは、魔法のようにすべてを解決する万能薬ではありません。
でも、相手との距離を心地よく保ちながら、誠実に関わるための“土台”になります。
忙しい職場でも、自分の気持ちを飲み込まず、相手にやさしく、でもはっきりと伝える。
そんな対話が少しずつ増えていけば、職場の空気はもっと健やかに、前向きになっていくはずです。
あなたの今日のひと言が、明日の人間関係を変えるかもしれません。
まずは「伝え方」を、見直してみませんか?
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