「なんだか、最近自信が全く持てないんです…」
それは、「心理的支配」の危険信号かもしれません。
「自分がおかしいのかも…」
「あの人の言う通り、自分にも非があるから…」
そんなふうに、自分の感覚や判断に自信を持てなくなっていく。
しかも、それが誰かとの日常的なやりとりの中で、じわじわと進行しているとしたら…。
もしかするとそれは、ガスライティングと呼ばれる心理的ハラスメントのサインかもしれません。
ガスライティングとは?
ガスライティングとは、相手の記憶や感情、判断を繰り返し否定し、自信や自己効力感を奪っていくコミュニケーションのこと。
その名は、1944年の映画『ガス燈(Gaslight)』に由来します。
(夫が部屋のガス灯を少しずつ暗くしながら、「明るさは変わっていない」と妻に誤った情報を与え続け、妻の感覚を疑わせて精神的に追い詰めていく物語です。)
明確な暴言や威圧的な態度とは異なり、ガスライティングは、
言葉や態度によって相手の内面にじわじわと入り込み、気づかれないうちに心理的に支配しようとする
ことが特徴です。
巧妙で、陰湿で、証拠が残りにくい。だからこそ、本人も周囲も気づきにくく、深刻化しやすいのです。
周囲でこんな会話があったら…危険信号!
職場でのやりとりの中に、こんな会話が潜んでいないでしょうか?
一見すると注意やフィードバックのように見えるものでも、相手の自信や感覚を揺さぶるような言い回しが繰り返されると、ガスライティングの入り口となります。
■ 繰り返し、提案資料を「雑だから」と曖昧に否定する
発言例:「またこれ?な~んか、雑だよね。忙しいのはしゃーないけど、君のポジションならもっと正確にやらんと」
→具体的な改善点を伝えることなく、主観的な言い回しで相手の評価を下げる。
影響: 理由がわからず、改善のしようもない。やがて、「自分の感覚はズレてるのかも」と思い込み、萎縮して挑戦できなくなる。
■ 言っていないことを「前に言った」と決めつける
発言例:「またそのこと?○○って前も言ったよね?これで何回目?」
→実際には伝えていない内容を「言ったことにして」、相手の記憶を否定し繰り返し責め立てる。
影響: 「自分の記憶がおかしいのかも」と疑うようになり、自信を失い報告や相談を避けるようになる。
■ 他のメンバーの前で評価を下げ、同意を求める
発言例:「この人、要領悪いよね~。なあ、みんなもそう思わん?」
→周囲を巻き込んで、個人を孤立させるような構図をつくる。
影響: 居場所を失ったような感覚に陥り、強いストレスや不安を抱えるようになる。
■ 周囲のネガティブな声を使って揺さぶる
発言例:「○○さんが、あなたのこと『カラ回ってる』って言っとったで。」
→周囲からネガティブな評価があると本人に伝え、不安と孤立感を煽る。
影響:「周囲に信頼されていない」と感じ、自己肯定感が大きく損なわれる。他者への不信感も生まれやすくなる。
なぜ、そんなことをするのか?
ガスライティングを行う側は、必ずしも明確な悪意を持っているとは限りません。
自分の立場を守りたい、優位でいたい、否定されるのが怖い・・・
そんな不安や承認欲求が背景にあることが少なくないのです。
その結果、相手の感情や主張を「なかったこと」にしたり、都合よく歪めたりして、自分の正しさや優位性を保とうとする。
本人に悪気はなくても、無意識のうちに繰り返されてしまうケースも多くあります。
だからこそ、周囲の早期の気づきと冷静な介入が必要不可欠なのです。
放置すれば、どうなるか?
このような関わりが繰り返されると、被害を受けた側は次第にこう感じるようになります。
- 「全部自分が悪いんだ・・・」「自分は周りに迷惑をかけている・・・」と思い込み、声をあげなくなる
- 判断や行動に自信が持てず、挑戦や提案を避けるようになる
- やがて心身の不調をきたし、休職・離職につながることもある
さらに職場全体も、対話や改善が起きづらくなり、挑戦が敬遠され、閉塞感のある環境へと変質していきます。
我々人事・教育担当者ができること
- 「知っておくこと」から始める
『ガスライティング』という概念を社内で共有し、研修やミーティングのテーマに取り上げることで、早期発見の土壌がつくる。 - 心理的安全性のある職場づくりを意識する
「失敗や違和感を口に出せる」空気があるかどうか。
上司自身が率先して否定せずに、意見を受け止める姿勢を持つことが、チーム全体に波及します。 - 相談しやすい仕組みを整える
「これって相談していいのかな?」という迷いをなくすためには、信頼できる相手に安心して話せるルートが必要です。 特に、加害の可能性がある本人との1on1では、本音を打ち明けられないケースもあります。
人事部門や利害関係のない第三者(他部署や専門医)との定期的な面談機会を設けるなど、複数の相談窓口を整備することが有効です。
最後に
ガスライティングは、見えにくく、気づきにくいからこそ、職場に深刻な影響をもたらす可能性があるハラスメントです。そしてそれは、誰もが『被害者』にも『加害者』にもなりうるという、非常に繊細で複雑な問題でもあります。
私自身、過去にメンバーを指導していた時のことを思い返すと
「あの指導のやり方はガスライティングだったのでは…」と思うことも・・・。
だからこそ、我々人事・教育企画の立場にいる者が、
「こうした問題が職場で起こりうる可能性がある」ことを前提として認識し、未然に防ぐための働きかけを行うことが求められています。
職場が、誰にとっても「安心して自分らしく働ける場所」であるために。
まずは、気づける組織を一緒につくっていきませんか。
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