「定着率」という壁に対して。
人手不足が深刻化する中、採用の現場では大手企業と中小企業が同じ土俵で人材を取り合う構図が生まれています。
新卒採用でも転職市場でも、待遇や条件面での差はどうしても埋められません。
「せっかく採用しても、数年で辞めてしまう」「なかなか根づいてくれない」
そんな声を、広島の企業様からも多く耳にします。
この『定着率』に対してどのようにアプローチをするのかが、多くの企業様の課題になっています。
そんな背景から、最近複数の経営者の方から「定着率を高めるために『愛社精神』を高めるにはどうしたらよいか」と、いった相談を受けることが増えてきました。
かつては古い価値観と捉えられがちだったこの言葉が、なぜいま再び注目されているのか。
私自身もその背景を考える中で、「愛社精神とは何か」「どうすれば育つのか」を改めて整理してみたいと思います。
愛社精神は急に生まれない
かつての愛社精神は、「会社のために尽くす」ことを意味していました。
しかし、いまの時代は忠誠や我慢だけでは人は動きません。
これは若手社員に限らず、すべての世代に共通する変化です。
背景には、働き方の自由度が広がり、価値観が多様化した社会の変化があります。
人々が大切にするものが「組織」よりも「自分自身の生き方」へとシフトし、会社に求めるのは『安定』よりも『納得や成長』になりました。
だからこそ、これからの愛社精神とは、「我慢して会社に尽くす」ことではなく、
「自分の成長や挑戦が、会社の未来とつながっている」と感じられる関係性の中で育まれるものだと考えます。
『マズローの欲求5段階説』に紐づけて考えてみる
ここで、愛社精神が育まれる段階を、人間の行動を突き動かす動機である心理学者マズローが提唱した「欲求5段階説」と紐づけて考えてみたいと思います。
マズローによると、人間の欲求は次のように下から順に高まっていくと言われています。
↓
②安全の欲求:安心して暮らしたいという欲求
↓
③社会的欲求:仲間や集団に所属したいという欲求
↓
④承認の欲求:他者から認められ、評価されたいという欲求
↓
⑤自己実現の欲求:自分の可能性を発揮したいという欲求
このマズローの理論を、私なりに「愛社精神が育つプロセス」と紐づけてみました。
【図解】私の考える「マズロー×愛社精神」モデル
➡労働時間・休暇・職場環境が安定していて、働くための基盤が整っている
(対応する研修)・新入社員研修(職場の基本・働く意義の理解)、業務効率化、5S研修(働きやすい環境づくり)
②安全の欲求:安心して暮らしたいという欲求
➡公平な制度・心理的安全が感じられ安心して働けている。
(対応する研修)・ハラスメント防止研修 ・マネジメント研修(心理的安全性の高い関わり方)
③社会的欲求:仲間や集団に所属したいという欲求
➡仲間・上司・顧客とのつながりこの会社の一員でいたいと感じている
(対応する研修)・チームビルディング研修 ・コミュニケーション研修(報連相・対話力)
④承認の欲求:他者から認められ、評価されたいという欲求
➡努力・成果・存在を認められ、この会社にいたいと感じている。
(対応する研修)・フィードバック研修(ほめ方・伝え方)・評価者研修
⑤自己実現の欲求:自分の可能性を発揮したいという欲求
➡自分の成長と会社の未来が重なり、この会社で更に挑戦をしたいと感じている。
(対応する研修)・ビジョン型リーダーシップ研修 ・キャリアデザイン研修
愛社精神を育てる組織環境
社員の心は、いきなり会社への愛着から始まるのではなく、
まず「働く基盤」が整い(①②)、安心して人と関わることができ(③)、
努力を認められる経験(④)を通じて、ようやく「この会社で挑戦したい」(⑤)という思いが芽生えます。
つまり、愛社精神は『どうにかして意識を変えさせる』ものではなく、
社員が求めている欲求を満たしながら、自然に育っていく関係性の結果です。
だからこそ、この順序を意識した組織運営をすることが重要になります。
だからこそ、経営者や人事が注力すべきは「意識の変化を管理すること」やはなく、社員の心理的な欲求を理解し、満たす仕組みづくりなのではないかと思います。
「何を感じてもらえる環境を整えるか」が、愛社精神を育てるうえでの核心だと私は感じています。
愛社精神とは、会社を愛することではなく、会社と共に生きたいと感じること。
愛社精神を育てることは、社員に「もっと会社を好きになれ」と訴えることではありません。
大切なのは、社員が「この会社で働くことが、自分の成長や幸福につながっている」と実感できる場を整えることです。
経営者や人事が目指すべきは、社員に忠誠を求めることではなく、
社員が「自分の可能性を活かせる場所」と感じる組織をどうデザインするかなのではないでしょうか。
愛社精神とは、会社が社員の自己実現を支援する。という覚悟の先に芽生える信頼関係なのだと、私は思います。
終わりに。
CAN be CAREERは、広島の中小企業とともに、
社員が誇りを持ち、挑戦し、成長できる環境づくりを支援しています。
愛される会社ではなく、共に育つ会社を。100社100通りの愛社精神を育む物語を、これからも共に描いていきます。
